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大阪高等裁判所 昭和51年(行コ)4号 判決 1977年10月28日

大阪市住之江区粉浜二丁目六番一二号

控訴人

白馬長吉

右訴訟代理人弁護士

鈴木康隆

稲田堅太郎

佐藤欣哉

右訴訟代理人鈴木康隆訴訟復代理人弁護士

渡辺和恵

大阪市住吉区上住吉町一八一番地

被控訴人

住吉税務署長

仲谷幸三

大阪市東区大手前之町

被控訴人

大阪国税局長

米山武政

右両名指定代理人

服部勝彦

吉田周一

米川盛夫

清家順一

石室健次

辻井治

右当事者間の更正処分取消等請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人住吉税務署長が昭和四二年一一月二二日になした控訴人の昭和四一年分所得税の総所得金額を金一〇八万六五三〇円と更正した処分のうち、金四五万八三〇〇円を超える部分はこれを取消す。被控訴人大阪国税局長が昭和四三年一〇月二五日控訴人に対してなした前項更正処分に対する審査請求一部取消の裁決は、これを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人両名代理人は、主文同旨の判決を求めた。

二、当事者双方の主張は、次に付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、それをここに引用する〔但し、原判決三枚目裏末行から遡つて三行目の「本件係争中」を「本件係争年中」と、同五枚目裏末行から遡つて三行目の「計量していたわけでもないから、」を「計量していたわけでもないうえ、」とそれぞれ訂正し、同じく遡つて二行目の「オカラ売渡金額」の次に「算定の基礎となつた資料(乙第二号証)は、本件課税年分より後れること五年、即ち昭和四六年六月に作成されたのであるから、これ」を加え、同末行の「合理的なものとはいえない。」を「合理的なものといえないだけでなく、著しく不正確である。」と訂正する〕。

(控訴人の主張)

控訴人は、被控訴人署長の主張する控訴人の豆腐(厚揚げを含む)の売上金額を否認し、既に反論したのであるが、更にこの点についてふえんする。

(一)  昭和四一年当時、控訴人は妻と二人で、面積約五坪ほどの場所において、豆腐の製造に従事して来た。

ところで原判決の認定によれば、控訴人は同年度中に二七一俵の大豆を消費したことになる。控訴人は年間約三二〇日営業していたから、これによると一日の大豆の消費量は大体〇・八俵ということになる。しかし控訴人の営業規模では到底それだけの量を消費できるものではない。蓋し、豆腐の製造は大体午前六時ころから始めるが、一回の製造工程は約一時間で、午前一〇時ころまでにその日の製造を終了する。そして一回の大豆の消費量は五升である。そうだとすれば、原判決の認定に基礎を置く量を右の時間までに消費できないことは明らかであろう。

それに控訴人は店頭売りのみであるところ、原判決の認定によれば、一日当り約四四二丁(三四升×一三)の豆腐を売捌かなければならないが、到底不可能である。まして控訴人が営業している粉浜商店街には、控訴人方から約一五〇メートル離れた場所に、次に述べるように控訴人方の二倍以上の規模をもつ同業の実城利一の店舗があるから、右量の豆腐が売れる筈もない。

(二)  ところで実城利一についても、本件係争年分の所得について同種訴訟が係属し、本件と同じ一審裁判所が判断しているところ、それによれば同人の大豆の消費量二〇四俵、豆腐の売上高約一二六万円余とされているから、いずれも控訴人を下廻ることになる。しかしその営業規模は、店舗約一五・七坪、従業員五人であつて、控訴人の二倍以上である。しかも同人は店頭売りのほか、卸売りもしているのである。この比較からすると、原判決の認定する控訴人の売上高は、二倍以上の営業規模をもつ実城利一の約三倍という結果になるのであつて、全く理解に苦しむというほかない。

(三)  次に動力用電力消費量の観点から考察する。控訴人の昭和四一年の使用料金は六四六〇円である。当時基本料金三五〇円、一キロワツトの料金三円七〇銭であつたから、これにより算出すると消費量は六一〇・八キロワツトということになる。他方、昭和五〇年が一〇一五キロワツト、昭和五一年が九〇〇キロワツトである。かように消費量が増加しているのに、昭和五〇年分の所得は七五万円、同五一年分のそれは七一万円である。元来右消費量は豆腐の生産量と直結するから、消費量の少い昭和四一年分の所得が、消費量の多い昭和五〇年分、同五一年分より多いということはありえないことである。

(四)  次に被控訴人が主張する昭和四一年の控訴人のオカラの販売高と電力消費量は、正比例すべきにもかかわらず、正比例していない。殊にオカラの販売高は一二月が最も多いのに、電力消費量は九月が最も多いのである。この点からいつても、オカラの販売額は極めて不正確というべく、これを所得推計の根拠とする合理性は乏しいといわなければならない。

(五)  なお、控訴人の申告所得は、本件係争年分を除いてその後は約六〇万円から七五万円の間であり、被控訴人もこれを認めていることからしても、本件係争年分だけが、右の三倍の所得があつたとすることは極めて不合理である。

(被控訴人らの認否)

控訴人の主張(三)の本件係争年分の動力用電力使用料金額、同(四)の電力消費量は九月が最も多いことは、いずれも認める。

三、証拠

(一)  控訴人

甲第一ないし第八号証、第九号証の一ないし一二、第一〇号証、第一一号証の一・二を提出して、当審証人実城利一の証言及び原審における控訴人本人尋問の結果(第一・二回)を援用し、乙第一号証の成立は認める、同第三号証の別紙部分の成立は不知、その余の成立は認める、その余の乙号各証の成立は不知と述べた。

(二)  被控訴人ら

乙第一ないし第四号証を提出して、原審証人松井三郎、同吉田周一及び同稲垣耕作の証言を援用し、甲第九号証の一ないし一二の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認めると述べた。

理由

一、当裁判所の認定判断は、原審のそれと同じであるから、原判決の理由の説示をここに引用する(但し、原判決七枚目裏四行目の「朝日乳業の」から同六行目の「数額である」までを「原審における被告ら代理人松井三郎が昭和四六年六月に至り、朝日乳業の経理担当者において本件係争年当時月別に記帳保管していた大学ノートと該担当者の説明により確認した数額であつて、単に確認の時期が後れたというだけで、その確認事項の信憑性に消長を及ぼすことはない」と改め、同六行目から七行目にかけての「他に特段の事情がない限り」を削除し、同末行から遡つて四行目の「それ以外」を「それ以下」と訂正し、同八枚目表末行の「つぎに」の次に「当審証人実城利一の証言と」を、同九枚目裏六行目から七行目にかけての「二七一俵になる」の次に「ところ、これに抵触する当審証人実城利一の証言部分は未だ措信するに足りない」をそれぞれ加える)。

二、ところで控訴人は、当裁判所が引用した原判決の理由の説示にある控訴人の豆腐製造量の推計に対し、この推計を覆すに足る特段の事情があると当審において縷縷主張する。

ただ引用した原判決の理由の説示からも明らかなように、本件推計の基礎とされたオカラの生産量は豆腐の生産量と直結(正比例)する関係にあり、しかもオカラの生産量が殆ど疑問を容れる余地のない資料を拠り所として確定されているだけに、右の推計を揺がすに足る反証は高度の信頼性を具備するものでなければならないといつてよいであろう。したがつてこの見地に立脚し、控訴人の各主張を吟味する。

(一)  先ず控訴人は、その営業の規模とか店頭売り専門などを理由として、引用した原判決認定の量の大豆を消費できないと主張し、これに副う証拠として成立に争のない甲第八号証、同乙第一号証に当審証人実城利一の証言及び原審における控訴人本人尋問の結果(第一・二回)がある。しかしながら、右実城証人及び控訴人本人の各供述によつても、控訴人主張の規模ではそれだけの量の大豆を消費することが物理的に不可能としているのではない。それに甲第八号証を除く右に掲記の各証拠には、その客観性を担保しうるものが見出し難いから、容易く措信できない。したがつて控訴人の右主張は前記推計を妨げるに足るものでないといわなければならない。

(二)  次に控訴人は、近隣の同業者実城利一との比較をいうのである。たしかに成立に争のない乙第一〇号証に当審証人実城利一の証言によると、その店舗の広さを約七坪と、本件係争年分の所得というのを昭和四〇年分の所得と改め、豆腐の原料として大豆以外にごとく豆一五袋を加えるほか、同人の営業規模及び豆腐の生産量は控訴人の主張と符合する。しかしながら右に掲記の証拠から窺えるところが、同人の客観的に正確な生産量を示すとの保障はないのであるから、これを比較の材料として控訴人の生産量などを云々することは当を得たものといえない。

(三)  更に控訴人は、動力用電力消費量を基礎として、前記推計を覆すに足る特段の事情の論証を試みるのである。そこに挙げられている電力消費量は、本件係争年分、昭和五〇年及び昭和五一年のいずれもが正確な数量を示すものであるけれども、それらの比較だけでは前記推計の誤りを導きえないところ、控訴人は、昭和五〇年分及び昭和五一年分の所得額を比較の対象に加えるのである。もとよりそれらの所得額が客観的に正確な数額を示すのであれば、考慮に価するものを含むといえようが、この点についての保障は全くない。したがつて控訴人のこの主張も採用できない。なお、その余の控訴人の主張も、前記推計を妨げるに足るものではない。

三、以上の次第であるから、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林定人 裁判官 鍬守正一 裁判官 石田真)

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